もらい事故の慰謝料
もらい事故に遭遇してしまったとき、最も困るのが示談交渉。
一般的な交通事故では、当事者の代わりに保険会社が示談交渉を行うのが一般的ですが、自分に過失がないもらい事故の場合、保険会社は交渉できないという法律があり、交渉を依頼できません。つまり、もらい事故に遭遇した場合、自分自身で相手側の保険会社と交渉を行う必要があるのです。
そこで、今回の特集では、示談交渉の中でも最も重要度の高い、慰謝料交渉にフォーカス。相手側が提示した慰謝料は適正か、慰謝料を上げるためにはどうしたら良いのかなど、示談書にサインする前に知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
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Chapter1 意外と知らない?示談金と慰謝料の違い
慰謝料とは?
慰謝料とは示談交渉の結果、支払われる示談金の1種類。示談金における立ち位置は図のようになっています。
慰謝料はケガによる精神的な苦痛に対して支払われます。これは言い換えると、物損事故の場合、慰謝料は発生しないということです。
慰謝料の金額には、基準となる目安(相場)が設定されており、入通院日数や後遺障害の等級を元に算出されます。「苦痛の感じ方は1人1人違うのに相場があるのか?」と不思議に思われるかもしれませんが、目に見えない苦痛をお金に換算することは不可能なため、スムーズに示談を進めるために相場が決められています。その上でケガの程度や加害者の運転状況を踏まえて、慰謝料が調整されるのです。
もらい事故の慰謝料
両者に過失がある事故では、慰謝料も自分の過失の分だけ割り引かれますが(過失相殺)、自分に過失がないもらい事故の場合、慰謝料が満額支払われます。また、自賠責保険から慰謝料や治療費などが支払われる場合も、過失相殺はなく(ゲガを負った側の過失割合が大きい場合は減額される)120万円を上限に慰謝料や治療費を合わせた金額が支払われます。ちなみに、120万円を超えた場合は、加害者本人への請求になります。
慰謝料は3種類
慰謝料の内訳は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類です。ここでは、被害者がケガを負ったときに請求できる、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料をチェックしましょう。
入通院慰謝料
事故のため、病院へ入通院することになった精神的な苦痛に対して支払われる慰謝料。入院・通院の日数に応じて金額が算出されます。
後遺障害慰謝料
事故のケガが完治せず、障害となって残ってしまった場合に支払われる慰謝料。例えば手首が曲がらなくなった、足に痛みが残った、というようなケースが該当します。後遺障害慰謝料を受け取るためには、医師による後遺障害診断書と、認定機関からの後遺障害認定が必要です。また、後遺障害は等級が高ければ高いほど、慰謝料も上がっていきます。事故時点では目立ったケガがない場合でも、後日痛みが発生し後遺障害認定されたというケースもあるので注意しましょう。
Chapter2 慰謝料の相場は?
上記のチャプターで説明したとおり、1人1人の精神的な損害を金額に換算することは難しいため、慰謝料には目安となる相場が存在しています。
ここで注意すべき点は、相場の基準が1つではなく「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士(裁判)基準」の3種類存在するという点です。自分の場合、どの基準を元に慰謝料が算出できるかは、相手側の保険加入状況や弁護士への依頼によっても異なります。
1. 自賠責基準
自賠責保険によって最低限保障される基準。3つの基準の中では最も金額が安く、明確な計算式が公表されています。相手側が任意保険に加入していない場合や、自賠責保険の被害者請求※1 をする場合、この自賠責基準をもとに慰謝料を算出します。
※1 自賠責保険の被害者請求…自賠責保険に対して、加害者ではなく被害者が支払いを請求すること。通常は相手側の保険会社が示談成立後に任意保険分とまとめて支払ってくれるため、被害者が請求する必要はありませんが、後遺障害等級の認定を優位に進めたいとき(慰謝料を引き上げるポイント参照)や、示談成立の前にまとまった金額が必要なときなどに利用します。
≪ 自賠責基準の計算方法 ≫
入通院慰謝料
治療日数… 実際に通院した日数×2 か 治療期間(治療を開始した日から終了した日まで) のどちらか小さいほう
- 例:治療期間3ヶ月(90日)、通院日数10日の場合
- 治療日数は…90日>20日(通院日数10日×2)
- 入通院慰謝料は…20日×4,200円=84,000円
後遺障害慰謝料
等級 | 支払限度額 | 慰謝料 |
---|---|---|
介護1級※2 | 4,000万円 | 1,600万円 |
介護2級※2 | 3,000万円 | 1,163万円 |
第1級 | 3,000万円 | 1,100万円 |
第2級 | 2,590万円 | 958万円 |
第3級 | 2,219万円 | 829万円 |
第4級 | 1,889万円 | 712万円 |
第5級 | 1,574万円 | 599万円 |
第6級 | 1,296万円 | 498万円 |
等級 | 支払限度額 | 慰謝料 |
---|---|---|
第7級 | 1,051万円 | 409万円 |
第8級 | 819万円 | 324万円 |
第9級 | 616万円 | 245万円 |
第10級 | 461万円 | 187万円 |
第11級 | 331万円 | 135万円 |
第12級 | 224万円 | 93万円 |
第13級 | 139万円 | 57万円 |
第14級 | 75万円 | 32万円 |
※2 後遺障害が認定された場合、障害を負ったことによる逸失利益も合わせて請求できる。そのため、限度額は慰謝料よりも大きく設定されている。
2. 任意保険基準
相手側が任意保険に入っている場合、保険会社が自社の基準に応じて慰謝料を算出します。この基準のことを任意保険基準と言い、厳密には各社で基準が異なります。計算式は明確にされていませんが、一般的に自賠責基準と弁護士基準の間に金額が設定されています。
3. 弁護士(裁判)基準
裁判所の判例を元にした基準。3つの基準の中では最も高額です。保険会社は任意保険基準に基づく金額を提示してくるため、それよりも高額な弁護士基準を主張するためには、弁護士へ相談・依頼が必要です。弁護士への依頼費用は必要ですが、弁護士基準で慰謝料・示談金が増額すれば、費用の元を取ることが可能。また、自動車保険に弁護士特約が付帯していれば、保険会社が依頼費用を上限300万円まで負担してくれます。
≪ 弁護士(裁判)基準の計算方法 ≫
表の見方
- 縦の列が入院期間、横の行が通院期間をあらわしています。
- 自分の入院期間と同じ列を見ましょう。
- 通院期間とクロスした箇所の金額が、慰謝料の相場です。
- 実際は、通院頻度やケガの度合いによって金額が増減します。
例:入院1ヶ月、通院4ヶ月の場合→相場:130万円
後遺障害慰謝料
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
Chapter3 もらい事故の慰謝料を引き上げるポイント
もらい事故の示談交渉で慰謝料を引き上げるポイントは以下の3つです。
1.過失割合を交渉する
たとえもらい事故であっても、相手側の保険会社がこちらの過失を主張するケースがあります。過失を認めてしまうと慰謝料が過失相殺されてしまうため、根拠を提示して反論しましょう。
その際に参考となるのが、交通事故の過失割合の事例を集めた判例集。「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]」という書籍です。本書籍で紹介されている判例が、過失割合を決める基準となっているため、過失割合に納得が行かない場合は、自身のケースに類似する判例をチェックしてみましょう。
2.後遺障害認定を受ける
上記で説明したとおり、後遺障害慰謝料は最も軽い第14級でも30~110万円にのぼります。後遺障害等級の有無は慰謝料を大きく左右するため、事故のケガによる痺れや痛みが残っている場合、後遺障害等級の認定を検討しましょう。
後遺障害等級の認定は、相手側の任意保険会社に認定機関へ申請してもらう方法(事前認定) と、自分で認定機関に申請する方法(被害者請求) の2種類があります。
認定機関は提出された書類を元に認定を行うため、誰がどのような書類を提出するかで、後遺障害等級の認定は大きく異なります。相手側の保険会社に任せる場合、書類をそろえて提出する手間は省けますが、保険会社にとって有利な書類ばかり提出されてしまう可能性も。
それを避ける一番効果的な方法は、弁護士や行政書士に被害者請求をお願いすること。自分自身の手で効果的な書類を集め申請できれば理想的ですが、法律の知識がない素人には困難です。できれば交通事故の経験が豊富な専門家に頼めると安心でしょう。
3.弁護士に依頼する
弁護士に代理人を依頼した場合、弁護士基準で要求ができるため、慰謝料だけでなく示談金全体が底上げされます。特に慰謝料は弁護士基準と任意保険の差が大きく、数十万円~数百万円の差が出ることが一般的。また、保険会社との話し合いや後遺障害等級の認定についても任せることができるので、示談交渉の時間・精神的な負担を軽減することも可能です。
まずは保険会社の提示金額が適切か、自分のケースではいくらもらえるのか、交通事故に強い弁護士事務所に相談してみると良いでしょう。
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Chapter4 示談がまとまらなかったらどうなる?
交渉を行ってみたけれど、納得できる金額がなかなか提示されない。自分自身で示談交渉を行う場合、そんなケースも想定されます。
では、もしも納得できないまま、示談が成立しなかったらどうなるでしょうか?
示談には時効がある
被害者が損害賠償を要求できるのは、事故発生から3年間です。つまり、示談がまとまらないまま3年が過ぎてしまうと、そもそも損害賠償の要求ができなくなってしまいます。加害者や保険会社からすると、時効を迎えても支払いの義務がなくなるだけで、示談が成立しなくてもデメリットはありません(※ただし刑事裁判がある場合は例外。示談が成立していれば判決が軽くなるため、加害者にとって示談が非常に重要になる)。そのため、示談を長引かせることは被害者にとって大きなマイナスとなります。
提示金額が不当に低い場合、調停や訴訟も検討
お互いの意見が大きく食い違い平行線をたどっている場合、被害者には紛争解決機関へ依頼したり、裁判所に調停や訴訟を申し立てるという手段があります(その際は弁護士へ依頼するケースが大半)。そしてそれでも決着がつかない場合は民事裁判となります。いずれにせよ、いたずらに示談を長引かせるのではなく、これ以上の提案が見込めないとなった時点で、どのような手段に出るかを決めたほうが良いでしょう。
調停や訴訟、裁判は強力な手段ですが、時間・金銭的な負担もかかります。得られるメリットとデメリットを比較して、現在の提案を呑むか、一歩進んだ手段をとるか検討しましょう。
もらい事故の慰謝料特集はいかがでしたか?
保険会社と交渉する際の注意ポイントは、冷静な態度を貫くこと。もらい事故では完全な被害者ということもあり、相手側に良い印象をもてないのは当然です。しかし、交渉の場でも感情的に対応してしまうと、保険会社の担当者も人間ですので、不必要にこじれてしまう可能性もあります。
慰謝料の交渉では、冷静に自分の意見を主張するように心がけましょう。